見せずアンチパターン(旧名称「未見える化アンチパターン」(旧名称非見える化アンチパターン))

概要

意図的であろうとなかろうと、意図や目的を見せる努力をしていないと、他者にあらぬ誤解を発生し、それがさらに拡大するという「よくない構造的問題」(=アンチパターン)。

背景

あるグループに所属する主体Aは、グループの置かれている状況、将来における目標、掲げている理念などに基づき、明確な意図を持って行動する。主体Aと主体Bが対等の立場の場合でも、主体Aと主体Bの間に上下、主従などのパワー関係が存在すると認識されている場合でもよい。パワー関係がある場合には、「明確な意図を持った行動」の一部は、「主体Aから主体Bに対する指示」になる。
主体Aは意図や理念、状況を主体Bに見せていない。それが意図的である場合でも意図的でない場合でもよい。

弊害

主体Bは主体Aが持つ意図を悪推する

主体B、は「主体Aが見せる行動および主体Aから示される指示」から主体Aが見せていない意図αを推論する。その推論された意図α’は、必ずしも意図αとは一致しない。これは推論があくまでも推論であり不確実であるというごく当たり前の事実によって発生する。ただし、主体Bの防衛的思考により、意図α’は主体α’自体よりも主体Bにとって不利なもの(悪推)になりがちである。

意図のずれは拡大する

主体Aが示した言動が、意図α’を指示すると主体Bが推論した(感じた)際、主体Bの防衛的思考は、さらに意図αから離れた意図α”を推論する。
主体Aが示した行動が、意図α’を指示しない場合、単に軽視される。もしくは、「意図α’を持っていることを隠そうとしている」という主体Bの推論を導く。

これにより、「主体Bが推論する主体Aの意図」は「主体Aの意図」とずれ、ずれは拡大していく。

悪推は強化され、事実化する

主体Aが示した言動が、意図α’を指示すると主体Bが推論した(感じた)際、主体Bは意図α’に対する確信度を高める。主体Aが特に意図を持たずに示した言動であっても、意図α’を指示すると主体Bが推論すれば、意図α’に対する確信度を高める要因となる。
確信度が高まると、主体Bは次第に意図α’が推論されたものであることを忘れ、事実と捉えるようになってしまう。

一旦事実化された意図α’は、さらに抽象度の高い意図β’を推論する土台となる。
また、主体Aに対して、主体Bと同じ利害関係にある主体Cがいて、主体Bと主体Cでそれぞれに悪推した意図を交換すると、それぞれの意図が補完、強化しあう。

これらの作用により、悪推は複雑なネットワーク構造を持つようになり、主体Aが何気なく行っている言動からも強化され、事実化、抽象化、拡大化が進む。

主体Bは主体Aへの不信感を持つ

主体Bは、主体Aが意図α’を持ちながら、それを隠している、と不信感を持つ。

対処

基本的には、主体Bに見せられる情報を積極的に見せていくしかない。特にパワー関係が存在する場合は、主体Bに対して単なる指示を出すのではなく、主体Bがコミットできるだけの情報をすべて明らかにする必要がある。たとえば、真意、意図、ビジョン、組織の置かれている状況、などである。
また、推論の強化、拡大は、主体Aが示す行動によって行われるが、主体Aが持つ意図はまったく関係ない。このことが示すのは、主体Aが示す行動の背景となる意図が、主体Bにとって利害関係があるかどうかはまったく関係ないということである。したがって、主体Aは主体Bにとって利害関係がない事項に関しても、意図を明らかにして行動する必要がある、ということである。
すなわち、主体Aは常に、どうでもいいと誰もが思うようなことでも、意図を明確にして行動する必要がある*1

なお、主体Aが主体Bとの対話を通して不信感を払拭しようとしても、たいていは失敗する。主体Bの防衛的思考は、主体Aが主体Bが見事に見抜いた(と感じている)意図を、説得により捻じ曲げ、隠そうとしていると捉えられるだけである。

よくある例

ほめるときは公に、叱るときは個別に呼び出して内密に、という指導方法を是とする考え方があるが、内密に、という部分もこのアンチパターンに該当する。叱られた主体D以外の主体は、呼び出された理由を悪推する。叱られた原因を悪推する。また、主体Dが叱られるはずの行為をしていたのを知っていた主体が、主体Dが叱られない理由を悪推する。主体D以外の主体が負例から学ぶ機会を奪う、という別の負の要素もある。

*1:これは非常に難しい。巨大な悪推ネットワークがどのように構築されたかを分析した経験では、ほとんどがこの「どうでもいいようなことに付随する言動」に対する推論が支えている。