スポットアウト - スポットライトを当てると、その周辺が見えなくなる現象

ある箇所がスポットライトを浴びると、その箇所の周辺が、相対的に暗くなって逆に見えにくくなってしまう。この現象を表わすことば、もしくは、こういう効果を表わす言葉は存在するだろうか。存在すればそれを使いたいが、そうでなければ「スポットアウト効果」という名前を付けておきたい。

スポットアウト効果は、その前提にある対象がスポットライトを浴びる現象が存在する。なぜスポットライトを浴びる現象が発生するか、については、「より強い刺激を求める視聴者の要望を得て、より強い刺激を報道しようとするメディア」「還元的記号的に過ぎる現代的知性のあり方」などがあると考えているが、それを議論するのは別の機会にしておく。

スポットアウト効果の例

広域災害報道

大きな地震が発生した際、窮状に陥ったある集落Aをこぞってメディアが報道する。それにより、世の中の興味と支援の有限のリソースがすべてその集落に集中してしまう。その集落Aの周辺にあった、より被害が軽微だったかもしれない集落Bは、支援が届かず復興が遅れる。スポットライトは「こんなにひどい惨状だ」「あんなにひどかった惨状にこれだけボランティアが終結した」「あのひどかった場所がこんなに復活した」と、もはや記号化した集落Aに当たり続ける。相対的に集落Bは集落Aよりも復興が遅れる。
集落Bが注目されるときは、スポットアウト効果が強すぎて集落Bがひどい状況に陥ったときである。正確には、そのひどい状況を「これは数字を取れるひどさだ。」とメディアが報道を始めたときである。

食品の機能性

特定の栄養素が注目されることにより、その食品が持つそのほかの特徴がないものとして扱われる。「トマトと言えばリコピン」という記号化された知識だけがもてはやされ、実際にリコピンが豊富な品種が作られ、消費される。耳目はその品種に向けられ、多様なほかの品種は軽視される。また、トマトの食味、青臭さなどのほかの特徴は軽視される。

中国産の食品の安全性

中国産の食品で安全性の問題が発覚した際、それぞれの食品の品質保証の程度は考慮されることなく、単にラベルとしての「中国産」を避け、単にラベルとしての「国産」が選択される。品質保証の程度だけでなく、風味などの違いは考慮されない。

一円でも安く購入する消費行動

価格というわかりやすい比較対象だけで購入するものを選択する。手間隙かけて料理するより加工品を買うほうが安いが、食品添加物の問題、料理の楽しさ、食材への理解、などの要素は考慮されない。ネット通販を利用するが、個人情報漏えいの危険性、既存の流通機構の破壊、実際にものを手にとって選ぶ重要性、販売員との対話などの要素は考慮されない。