ゾンビの教訓、の教訓

ゾンビの教訓 - 内田樹の研究室

「インフルエンザの蔓延も困るが、経済活動の停滞も困る。さて、どちらがより困った事態か」という類の「究極の問い」に当惑するというのはごく自然なことである。
このような問いにどう対処するかについて「マニュアル」は存在しない。
「マニュアル」は存在しないが、その代わりに私たちには「物語」がある。
ハリウッドのC級映画では「ゾンビも怖いが、死なない兵士も捨てがたい、さて、どちらを取るか」とか「アナコンダも怖いが、不死の蘭エキスはぜひ手に入れたい、さてどちらを取るか」といった「究極の問い」をめぐってしばしばドラマが展開する。
これらの映画にだいたい共通する教訓は、「我が身の安全よりも、利益を選んだ人間はたいへん不幸な目に遭う」ということである。

なるほど、我々は物語によって教訓を得ることができる。しかし、その物語の積み重ねから得られる教訓は、人間は物語から得られる教訓から学ばずに愚挙を繰り返す、ということだ。